(2007.02.24記)
知人女性が言った。「子供の頃は信じてました、女は皆大人になったらルパン三世に出てくる峰不二子みたいになるんだって」その場にいた皆で笑った。でも、何だか分かる気がした。
子供の頃は怖いものが沢山あった。厳しかった父、仲間外れ、野良犬、エレベーター、酔っ払い、宇宙人、お化け、特に幽霊が怖かった。どうやら霊感は持っていないようだったが、見てしまったらどうしようと気が気でなかった。学校で怪談でも聞こうものなら、放課後一人で家に入れず、玄関の前で弟を待った。そんなに怖いなら聞かなければいいのに、級友が心霊話を始めると、つい話の輪に首をつっ込んでしまう。そういう日に限って父が夜勤で留守だったりする。灯りを消して布団に入ると、天井に何かが見えそうで怖い、かといって目を瞑るのも怖い。ビクビクしながらいつしか眠り、怖い夢を見て飛び起きるのだった。そんな私を父は笑った。父はいつも堂々としていた。私は思った、大人になったら幽霊が怖くなくなるのだと。しかし20歳を過ぎても怖いままだった。
5年前に他界した姑は霊感が強かった。知人の葬儀から帰った舅を玄関へ迎えに出て、「パパ、入っちゃダメ!連れて帰ってきてるッ!塩持ってくるから待って」と怒鳴ったとか、そういう話を幾つか彼から聞いた。あれは亡くなる少し前だったと思う、前後の話は忘れたが、姑が私に教えてくれた。「もし霊を見たら『お帰り下さい、私には何も出来ませんから』ときっぱりと言いなさい」姑が亡くなってすぐの頃、私は怖い夢を見た。夢の中で、霊が私へ近付いてきたのだ。恐ろしさに引き攣ったが、私は自分を奮い立たせて相手に向き直った。震える声を絞り出した。「帰って下さい、私には何も出来ません、帰って下さいッ、帰って!」途中から叫びに変り、自分の声で目が覚めた。くっきりと残る恐怖に息は荒かったが、ほのかな満足感に包まれてもいた。私は逃げなかった、立ち向かえた・・。怖いものは幾つになっても怖い。けれど、自分の中に生まれたささやかな強さを思った。大人になるってこういうことか、と。
2008年08月19日
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